ある朝1本の電話がかかってきました。
「猫の門脈シャントの手術をお願いできないでしょうか?」という内容でした。私自身以前ブログで書いたとおり、門脈シャントの手術執刀は猫で1回犬で1回の計2回しかなく、経験が非常に少ないことをお伝えしました。
飼い主さんは猫さんが診断から3年経過し食欲もなく弱ってしまっており、それでもいいからお願いしたいと来院されました。
検査をさせていただくと肝機能不全が進行して体調を崩したわけではなく、
胃腸の機能的イレウスによる食欲低下でした。もちろん胃腸の運動低下が
門脈圧の亢進に伴って起こることもありますが、それではないと判断しました。
流動食を与えながら静脈から点滴で胃腸を動かすお薬を流して治療すると、順調に回復してくれました。食欲と元気が戻ったので退院し、しっかり食べて体力をつけ、再度手術をすべきか否か考えてきていただくことになりました。
1度目の入院で静脈点滴と経鼻カテーテルで治療しているところです。
退院してしばらくして、食後のアンモニアを測定すると、やはり高値を示しました。肝性脳症はないものの食事制限のない普通の猫の生活をさせてあげたいという願いから、飼い主さんは再度手術の希望をされました。
門脈シャントの術後に原因不明の発作が起こることがあります。犬よりも猫でその発生が高く、診断されてからの経過が長いほど発生率が高いとされています。これについても飼い主さんは理解されており、手術を実施することにしました。
術式はシャント血管にセロファンを巻き付け、少しずつ血流を遮断する方法を選択しました。また術後発作が起きないようにレベチラセタムという抗けいれん薬を術前から内服しました。シャント血管を急に遮断しなければ、術後の発作の可能性もほぼないものだと考えていました。
手術は無事に終了し、翌朝には活動性や食欲もあり経過は非常に順調でした。
手術翌朝の様子です。
しかしその日の午後から活動性と食欲の低下がみられはじめ、夕方になると意識はしっかりしているものの、小さな発作(耳と顔の筋肉の痙攣)が続けてみられるようになってしまいました。
通常の抗けいれん薬投与では症状はおさまらず、静脈からの全身麻酔薬投与で発作をコントロールをしました。発作のない時間を15時間ほどつくり、麻酔薬を徐々に減らして覚醒させましたが小さな発作が間欠的に起こってしまい、再度麻酔薬を投与しつつ、今まで使用していない抗けいれん薬の併用も試みました。
しかし次の覚醒時も発作はおさまりませんでした。
飼い主さんに発作のコントロールが非常に難しく、命の危険があることをお伝えし、相談の末自宅に帰って療養することとしました。
発作のコントールができていない状態で自宅に帰り、回復する見込みは極めて難しい状態でしたが、飼い主さんはあきらめることなく看護を続けてくださいました。
つづく