犬の歯髄炎と根尖膿瘍
2021年4月22日
眼の下の皮膚病変(かさぶた)を主訴にポメラニアンさんが来院されました。
眼の下の部分にかさぶたや排膿がある場合、根尖膿瘍を考慮して必ず歯をチェックしなければいけません。
根尖膿瘍とは歯の根っこ部分にまで感染がおよび、膿がたまる状態です。
治療は基本的に感染してしまった歯を抜き、抗生物質を内服します。
レントゲンでは赤矢印の部分に歯槽骨の吸収がみられました。
歯石を除去すると歯髄につながる穴がみつかりました。
おそらく歯の破折によるエナメル質の欠損部から歯髄に感染したと考えられます。
第4前臼歯は根が3本あるので分割して抜歯をします。
感染により歯根がいびつに変形し変色しています。
抜歯をして洗浄し、歯肉を縫合して終了です。
眼の下の皮膚病変がなかなか治らないときは、歯の病気の可能性もありますので、早めに動物病院を受診してください。
デグーの臼歯過長
2021年4月11日
以前デグーの疾患についての論文に触れましたが、中高齢のデグーで一番多い来院理由が歯のトラブルです。
症状としては食欲不振(特に柔らかいものを好む)、流涎、口の中の違和感(歯ぎしりや口をモゴモゴする)などがみられます。
レントゲン検査も診断に有用です。
専門書(Dentistry in Rabbits and Rodents)から抜粋した正常なデグーのレントゲンです。
当院で撮影したレントゲンです。
赤丸の部分の歯がトゲのように伸びています。
赤丸の部分に過伸がみられ、青丸(歯の根)の部分にも異常がみられます。
基本的に下顎の歯は内側(舌側に)に、上顎の歯は外側(頬側)にトゲを作るように過長し、痛みを生じます。
治療は全身麻酔下で歯の伸びた部分を切削し、ぐらついているものは抜歯します。
赤丸ところの歯が過長しており、青丸の部分の舌は壊死してしまっています。
左下の臼歯を削り終わったところです。
一度こういった状態になると定期的に全身麻酔をかけて過長歯を削らなければいけないことが多いので、牧草主食の食餌で臼歯の摩耗をうながし予防をしなければいけません。
幹細胞治療について
2021年4月9日
動物再生医療技術研究組合に登録が完了し、当院でも他家幹細胞治療を受けていただくことが可能になりました。
まだまだ治療効果は未知数な部分もありますが、難治性の病気における治療の選択肢が増えることはよいこだと考えています。現在以下の疾患が対象となっています。
詳しくはお問い合わせください。
アメリカンブリ犬の避妊手術
2021年3月23日
アメリカンブリさんが避妊手術で来院されました。
体重32キロでものすごい迫力ですが、とても穏やかで繊細な子でした。
犬舎が手狭なので待合でお迎えを待つことにしました。
大型犬の来院はめったにないですし、アメリカンブリさんは開院以来はじめてなのでテンションがあがってしまいました。
手術が無事に終わって良かったです。
動脈管開存症の外科手術
2021年3月19日
心雑音を主訴にブリーダーさんがマルチーズを連れて来院しました。
心基底部に連続性の雑音が聴取され、心エコー検査にて動脈管開存症と診断しました。
動脈管は生後間もなく閉鎖するのですが、これが閉じないのが動脈管開存症です。大動脈から右心に血液が流れ込んでしまい、右心の圧力が上昇してしまいます。これが続くと心不全により死に至ることもあります。
エコーで検出された右心に流れ込む血流です。
治療は手術で動脈管をしばって閉じることです。
動脈管を結紮糸で確保したところです。
この糸をしばって、胸を閉じれば手術完了です。
手術翌日にはICUから出て、食欲もでてきました。
1.0㎏しかない小さいからだで、大きな手術をがんばってくれました。
術後のエコー検査でも右心に流れ込む血流は消失しています。
これで健康な犬たちと同様の生活をおくることができます。
セキセイインコの甲状腺腫
2021年3月16日
1週間ほど前から調子が悪い(膨らんであまり動かない)セキセイインコさんが来院しました。呼吸が早く尾が上下していました。
このような状態の鳥を無理に保定すると急死してしまうことがあるので、
十分酸素化してから短時間で検査を行う必要があります。
腹部エコーで腹水貯留はなかったので呼吸器疾患、甲状腺疾患を考えレントゲン検査を実施しました。撮影時の保定でキューキューと声が出てしまう症状がみられたため、甲状腺や鳴管の病気を強く疑いました。
赤矢印で囲まれているところが腫大した甲状腺です。気管が押し下げられています。(精巣領域にmass陰影があるのも気になります。→精巣腫瘍疑い)
レントゲンでは胸郭の入り口付近に甲状腺腫大を疑わせる不透過性領域がみられ、甲状腺疾患(甲状腺腫または甲状腺癌)と診断し、内服を開始しました。
甲状腺腫は食餌中のヨード不足で甲状腺ホルモンが低下し、それを補おうと甲状腺が腫大して呼吸困難などの症状を起こす疾患です。
初週の内服はステロイド、甲状腺ホルモン、ヨードを含むビタミン剤を使用しました。
再診時は呼吸も正常にもどり、保定をしても声は出なくなってなっていました。
今後は水にヨードを含むビタミン剤を混ぜてもらい、再発しないように経過をみていきます。
鳥の呼吸に異常を感じたときは、様子をみないですぐに動物病院に連れていきましょう。
犬の眼瞼腫瘍摘出
2021年2月26日
眼瞼腫瘍は中高齢の犬で比較的よく遭遇する疾患で、治療は基本的に
外科的切除になります。多くは油を分泌するマイボーム腺由来の良性腫瘍です。
今回は病理診断名はマイボーム腺上皮腫でした。
図のように切除し縫合します。
しこりが大きくなるとまぶたを切除する距離が長くなり
眼裂が短くなってしまうので早めに切除したほうが良いです。
手術直後です。これぐらいだとまぶたの短縮もほとんど気になりません。
1週間はエリザベスカラーを付けて術部を保護します。
眼瞼の小さな腫瘍の切除であれば、当院でも対応可能ですので見つけた場合は早めにご相談ください。
猫の門脈シャントと術後発作②
2021年2月22日
門脈シャントの術後発作の原因は不明ですが、術前術後で血流の変化がなければ起こらなかったはずです。私が手術でセロファン設置の際の締め込みが強く、血流変化が起きてしまったのだと思います。
退院後、飼い主さんは流動食をこまめに与え、脱水改善のため門脈シャントの診断をしてくださった病院に点滴通院し、関節の拘縮を防ぐためにストレッチを毎日続けてくださいました。同居の兄弟猫さんもそれを支えるように見守ってくれました。
数日後、間欠的な小さな発作はあるものの、首を持ち上げられるようになりました。
、
最初は後ろ足は立たないものの、前足で進めるようになり
その数日後には後ろ足でふらつきもつれながらも立てるようになり、小さな発作も少しずつおさまっていきました。
東洋医学に精通した動物病院で針とお灸の治療もしています。
写真は自宅でお灸をしている様子です。
今では視覚がないものの、自由に歩き回れるまで回復しています。
体の毛づくろいなど猫らしいしぐさも見せてくれるようになりました。
回復の見込みが低いと判断した私の見立てが間違っていたのもあると思いますが、ここまでの回復はご家族の方の手厚い看護とあきらめない気持ちがなければなしえなかったことです。
2021年2月22日で術後5週間になりますが、現在も治療、リハビリは継続中です。歩き回るようになった分目が離せなくなったり、トイレがうまくいかなかったり大変なこともたくさんありますが、いつも一生懸命愛情をもって看護してくださっているご家族の方々に感謝しかありません。
猫の門脈シャントと術後発作①
2021年2月22日
ある朝1本の電話がかかってきました。
「猫の門脈シャントの手術をお願いできないでしょうか?」という内容でした。私自身以前ブログで書いたとおり、門脈シャントの手術執刀は猫で1回犬で1回の計2回しかなく、経験が非常に少ないことをお伝えしました。
飼い主さんは猫さんが診断から3年経過し食欲もなく弱ってしまっており、それでもいいからお願いしたいと来院されました。
検査をさせていただくと肝機能不全が進行して体調を崩したわけではなく、
胃腸の機能的イレウスによる食欲低下でした。もちろん胃腸の運動低下が
門脈圧の亢進に伴って起こることもありますが、それではないと判断しました。
流動食を与えながら静脈から点滴で胃腸を動かすお薬を流して治療すると、順調に回復してくれました。食欲と元気が戻ったので退院し、しっかり食べて体力をつけ、再度手術をすべきか否か考えてきていただくことになりました。
1度目の入院で静脈点滴と経鼻カテーテルで治療しているところです。
退院してしばらくして、食後のアンモニアを測定すると、やはり高値を示しました。肝性脳症はないものの食事制限のない普通の猫の生活をさせてあげたいという願いから、飼い主さんは再度手術の希望をされました。
門脈シャントの術後に原因不明の発作が起こることがあります。犬よりも猫でその発生が高く、診断されてからの経過が長いほど発生率が高いとされています。これについても飼い主さんは理解されており、手術を実施することにしました。
術式はシャント血管にセロファンを巻き付け、少しずつ血流を遮断する方法を選択しました。また術後発作が起きないようにレベチラセタムという抗けいれん薬を術前から内服しました。シャント血管を急に遮断しなければ、術後の発作の可能性もほぼないものだと考えていました。
手術は無事に終了し、翌朝には活動性や食欲もあり経過は非常に順調でした。
手術翌朝の様子です。
しかしその日の午後から活動性と食欲の低下がみられはじめ、夕方になると意識はしっかりしているものの、小さな発作(耳と顔の筋肉の痙攣)が続けてみられるようになってしまいました。
通常の抗けいれん薬投与では症状はおさまらず、静脈からの全身麻酔薬投与で発作をコントロールをしました。発作のない時間を15時間ほどつくり、麻酔薬を徐々に減らして覚醒させましたが小さな発作が間欠的に起こってしまい、再度麻酔薬を投与しつつ、今まで使用していない抗けいれん薬の併用も試みました。
しかし次の覚醒時も発作はおさまりませんでした。
飼い主さんに発作のコントロールが非常に難しく、命の危険があることをお伝えし、相談の末自宅に帰って療養することとしました。
発作のコントールができていない状態で自宅に帰り、回復する見込みは極めて難しい状態でしたが、飼い主さんはあきらめることなく看護を続けてくださいました。
つづく
子猫の鎖肛 つづき
2021年1月28日
鎖肛の子猫さんの元気食欲がなくなってしまいました。
レントゲンを撮影すると、盲端になっている大腸に糞塊が停滞していました。
手術が必要であると判断し、実施しました。
エコーで皮下の直下に糞塊があることが確認し、皮膚を慎重に切開し、皮下の脂肪を除去すると大腸の漿膜面にアプローチできました。
ここに切開を加え、糞塊をある程度除去して大腸の切開部を皮膚に縫合しました。
陰部に開口している瘻管(今までうんちが漏れ出していた穴)については今回何もしませんでした。
左が術前、右が術後1週間の写真です。時々うんちの切れが悪くおしりにくっついていることがありますが排便は大方良好で、元気食欲も著しく改善しました。
便通が良くなるよう食事はベビーキャット用に可溶性繊維を含むフードを混ぜて与えています。
左が術前、右が術後1週間のレントゲン写真です。糞塊が停滞することはなくなりました。
まだ成長過程で何があるか分かりませんが、このまま順調に経過して欲しいです。
里親さん募集中です。